Project Story

2022.05.23
第2回
第2回
さがす

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Project Story#13

大切なのは、お客さんを信じること。「CINEMUNI」が描く日本映画の未来

全2回連載

「CINEMUNI」が描く日本映画の未来

インタビュー・文:横川 良明

次世代クリエイター映画開発プロジェクト「CINEMUNI」の記念すべき1作目として動き出した『さがす』。片山慎三監督(以下、片山監督)の唯一無二のセンスと、ものづくりに対する妥協のない姿勢は、世界を目指す「CINEMUNI」の第1弾を飾るにふさわしいものだった。

 その比類なき才能を現場にいたスタッフたちはどう感じたのか。そしてその独創性をどうマーケットに発信したのか。プロデューサーの井手陽子、山野晃、宣伝の中島航が『さがす』公開の舞台裏を明かしてくれた。

片山監督は一切妥協をしない人

製作を進める中で片山監督の才能を感じたのはどんなときですか。

山野:片山監督は非常にテイクを重ねる方なんですね。その妥協のなさはさすがというか。相手が佐藤二朗さん(以下、二朗さん)というベテラン俳優でも、まったく変わらないんです。それは、監督の中に明確なビジョンがあるから。しっかりやりたいことがあって、こだわりを貫く信念の強さがある方だなと、現場でご一緒してみて改めて感じました。

井手:私は、現場で生まれるものをすくいとるのが上手な方だなと思いました。役者同士がかけ合わさったことで生まれたものをすぐに次のシーンに取り入れたり。そうやってどんどん新しい台詞やシーンが生まれることで、作品がより豊かになっていく。本当に次々とアイデアが生まれてくるんです。そこは、間近で見ていても驚きでした。

山野:たとえば、劇中、トイレでムクドリ(森田望智)が智(佐藤二朗)に「お父さんのにおいがする」と言って2人で涙を流すシーンがありましたけど、あれはもともとの台本にはなかったんですよね。現場で監督が足されたもので。

井手:あとは冒頭のシーンもそうですよね。

山野:そうですね。二朗さんがハンマーを振っているところから始まるんですけど、あれは撮影の池田(直矢)さんが空き時間に二朗さんがお試しで練習されているのをこっそりと撮っていて。それを片山監督に見せたら、面白いからこれでいこうと。しかもそれを冒頭といういちばんインパクトのあるシーンに持ってきたところも含めて、片山監督の現場での瞬発力がよく表れたエピソードなんじゃないかなと思います。

中島:さらにすごいのが、そうやって生まれたシーンを編集でバッサリ切ってしまえるところなんですよね。

井手:そうなんです。普通、自分で脚本を書いて、自分で監督もされると、どうしても主観が捨てきれなくて、できるだけ全部盛り込みたくなるものなんですけど、監督は違う。編集の段階では完全に客観の目線を持っていて、それがどんなにこだわって撮ったシーンでも、作品にとって本当に必要かどうかを冷静に判断できるんです。なんなら私や山野くんがあんなにいっぱい撮ったんだからもうちょっと使ってよと思うくらいバッサリ切る(笑)。主観と客観の目を両方備えた上で、どうやったら映画が面白くなるかを突きつめられる方ですね。

山野:妥協がないという意味では、撮影だけでなく、脚本のときからそれはずっと変わりませんでしたね。やるからには見たことないものをつくりたいという想いが片山監督は強くて、何度も改稿を重ねるんです。その貪欲さはすごかったですね。まだまだこんなものではお客さんは驚かないと、それこそクランクインの直前までひたすらアイデアを練り続ける。しかもすごいのが、改稿するたびにどんどん面白くなるんです。

中島:この『さがす』も最終的には12稿にまでなりました。

井手:ラストシーンなんかも直前まで直していましたよね。

山野:本当に最後まで粘られていて。ラストシーンのやり取りは最後の最後、クランクインの直前に生まれたものです。あの妥協のないエンターテインメント精神があるから、あんなすごいシーンが生まれるんだなと、今回ご一緒して実感しましたね。

力のあるスタッフのおかげで『さがす』らしい世界観を示せた

では、そうして生まれた『さがす』をどう世に広めていくか。宣伝として考えたことを聞かせてください。

中島:最初は結構迷った面もありましたね。「指名手配中の連続殺人犯見たんや」と言って父親は突然姿を消す。懸命にさがす娘がやがて辿り着いたのは父になりすました連続殺人犯で・・・というストーリーをサスペンスと定義するのか、犯罪スリラーとするのか、あるいは人間ドラマと定義するか、様々な売り方を考えました。それこそラッシュや初号をご覧になった方の感想を聞いても、その人の立場や経験などによってまったく違う感想だったんです。

山野:本当にいろんな切り口が考えられる作品ですよね。

中島:当初からコアターゲットは週1本以上映画館に足を運ぶ映画ファンでいこうと絞っていました。映画を見る目が肥えている方々にまず届けたいからこそ、あまり宣伝サイドからジャンルを狭めすぎない方がいいのではないかと考えました。宣伝資料に“サスペンスエンタテインメント”と書いていた時期もあったんですけど、それを撤回して、辿り着いたジャンル感は“唯一無二の衝撃作”。何を“衝撃”と感じるかは人それぞれ。最後の展開に衝撃を受けた人もいれば、娘の決断に衝撃を受けた人がいてもいい、全編通してのストーリーテリングやキャストの演技に衝撃を受ける人もいるかもしれない。人によって感想が分かれて、多義的であることこそが本作の魅力ではないかという想いでしたね。

山野:この物語自体、意外性がひとつの売りになる。だから、どこまでを宣伝時に情報として見せていくかは中島くんとも議論をしたところでした。あまり隠しすぎるとお客さんには伝わらない。だけど、バラしすぎるとお客さんの楽しみを奪うことになる。この作品ならではのいちばんいい提示の仕方というのはかなり気を遣いました。

中島:あとは宣伝プロデューサーとして、社内・社外問わずチームで協働することの大切さは意識しました。自分ひとりの力でやっていると、自分の限界が作品の限界になる危険があります。でもチームでやれば、個々の力がかけ合わさって、作品の可能性がさらに遠くへ広がっていく。ターゲットを考えた際にビジュアル・予告が肝だと考えていたので、ビジュアルデザインは韓国のデザイン会社であるpropaganda(プロパガンダ)さんにお願いをしました。予告編は『オーバー・フェンス』などの豊下美穂さんにつくっていただいています。実力も経験もあるスタッフさんに適材適所で入っていただいたおかげで、『さがす』らしい世界観を示すことができました。

井手:今回、propagandaさんとご一緒できたことは大きかったと思います。片山監督の作品は日本映画の枠を超え、海外に通用する力を持っている。だからこそ、宣伝ビジュアルから日本映画の枠を超えた面白さを表現できないかという想いがありました。日本の映画はどうしてもビジュアルで説明しすぎてしまう。でも、propagandaさんは作品を信じ、お客さんを信じたビジュアルをデザインしてくれた。その結果、ビジュアルからみなさんの興味を引くことができたのではないかと思っています。

中島:まさに井手さんのおっしゃる通りで、お客さんを信じることがすごく大事なんだなと改めて実感しました。『さがす』では、宣伝チーム全員がお客さんを信じて宣伝ができたと思います。その結果、公開後にお客さんからポジティブな反応をたくさんいただけて、ロングラン出来たことはありがたかったですし、僕たちにとっても自信になりました。

新しい才能を送り出す場をこれからも提供し続ける

では最後に「CINEMUNI」の今後についてお話しいただけますか。

中島:これは映画業界に限らないことですが、同じ人たちで業界をまわし続けているという状況がこの10年くらい続いている気がしています。それは短期的に見れば安定しているかもしれませんが、長期的に見れば新陳代謝が進んでいないということなんですよね。新しい才能が出てこない業界は、やがて衰退する。そんな中で、「CINEMUNI」がある程度の予算をかけ、製作体制も宣伝体制も整えた上で、世界に目を向けて新しい才能を世に出していくというのはすごく意義のあること。そこに自分が立ち会えていることに、いち映画ファンとして興奮があるし、この先も映画業界でずっと働き続けたいと思っている僕にとって、この上ないチャンスだと思っています。この「CINEMUNI」から今後も新しい才能が生まれていけば、映画ファンのみなさんにとってもすごくエキサイティングな未来が待っているはず。まだまだ走り出したばかりではありますが、そんな未来をみんなでつくり上げていきたいです。

山野:A24やFOXサーチライトなど、映画ファンから面白いことをやっていると認知されているレーベルが海外にはあります。「CINEMUNI」が目指すのは、そんなふうに映画を愛する人たちから面白い作品をつくっていると認めていただけるようなブランドを築くこと。そのためには、常に新しいクリエイターを発掘し、良質な作品を輩出し続けることが大事です。この1作で終わらず、「CINEMUNI」というプロジェクトを継続し、面白い作品を世に放ち続けることが、映画を愛するみなさんにとって大きな価値になるんだと信じて、これからも頑張りたいです。

井手:今は国内外のボーダーもなくなり、世界中の方に自分たちの作品を観ていただける時代。ただその中で、世界で日本映画の存在感が下がっているようなところも、映画業界に身を置く者として感じてはいます。けれど、決して日本の映画が世界と比較して劣っているわけではない。才能のある方は日本にたくさんいらっしゃいます。私たちにできることは、その才能を世に送り出す場をつくること。この「CINEMUNI」がその場となって、まだ誰も見たことのないようなオリジナル作品を今後も生み出していければと思います。

中島:今、ふっと思い出したんですけど、『さがす』の撮影中に、井手さんが「「CINEMUNI」はよく若手の才能を支援するという言い方をされるんだけど、別に10代の若手監督がいてもいいし、90歳の若手監督がいてもいいんじゃない?」という話をされていて。それがすごく印象的だったんですよね。確かにその通りで、年齢に関係なく、可能性を持った人と「CINEMUNI」でご一緒できるとしたら、それはすごく夢のあることだなと思いました。

井手:そうですね。「CINEMUNI」では年齢制限を設けていません。こういう時代ですから、あらゆるボーダーをこえて、いろんな可能性を「CINEMUNI」では探っていきたい。ちなみに、今まさに第2弾の準備を進めているところです。まだどんな内容かはお話しできませんが、「CINEMUNI」の名の通り唯一無二の作品になると思っています。ぜひ楽しみにしていてください。

『さがす』公式サイト:https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/sagasu_movie
©2022『さがす』製作委員会