【第1回】新しい才能を世に送り出す。次世代クリエイター映画開発プロジェクト「CINEMUNI」始動!

「CINEMUNI」に込めた日本映画への想い

2022.05.20

インタビュー・文:横川 良明

<全2回>
第1回
第2回

今、日本映画界には様々な課題が山積している。そんな業界の閉塞感を打破し、これからの映画界を担う人材を輩出すべく、アスミック・エースで新たなプロジェクトがスタートした。それが、DOKUSO映画館との共同事業となる次世代クリエイター映画開発プロジェクト「CINEMUNI」だ。

「CINEMUNI」とは、「CINEMA」と唯一無二の「無二」をかけ合わせた造語。優れた才能を持ちながらも、なかなか挑戦の場が与えられない新鋭クリエイターとタッグを組み、企画制作から劇場公開、国際展開までをアスミック・エースとDOKUSO映画館が一気通貫で手がける。

その第1弾として公開されたのが、片山慎三監督(以下、片山監督)の『さがす』だ。長編デビュー作『岬の兄妹』で映画ファンに衝撃をもたらした片山監督にとって本作が初の商業映画となる。

そこにはどんな想いが込められていたのか。プロデューサーの井手陽子、山野晃、宣伝の中島航に語ってもらった。

 

未来ある監督のオリジナル作品を日本から世界に発信する

――まずはどんな想いがあって「CINEMUNI」立ち上げに至ったのか、設立の背景から聞かせていただけますか。

井手:そうですね。やっぱり昨今の映画製作を取り巻く現状への課題感というのがありました。と言うのも、2000年代まではアスミック・エースでもまだ実績がそれほど多くない監督の作品を手がけることは多かったんですね。けれど、年々環境が厳しくなり、昨今はいくらこの監督は才能があると思っても、実績がなければ出資を集めるのが難しくなりつつありました。

 

――特に今は人気の原作がついているものは一定の興行収入が期待できますが、オリジナルとなるとなかなか厳しいのかなと感じています。

井手:まさにおっしゃる通りです。弊社でも原作ものの作品を数多く手がけていますし、映画界全体を盛り上げていくには欠かせないものだと思っています。ただその一方で、監督の作家性が最も顕著に現れるのはオリジナルだという想いもあります。面白いアイデアを持っていらっしゃる方はたくさんいらして、でもなかなかそれを世に出すチャンスがない。こうした現状を変えていくためにも、アスミック・エースとして「場」を提供することが必要なんじゃないかという意識がありました。そこで生まれたのが、「CINEMUNI」です。

山野:1本の映画を世に出すには、製作費もかかるし宣伝費もかかる。映画はリスクを伴うビジネスです。実績のある監督に企画が集まるのも仕方ない側面はあります。でも映画界の未来ということを考えれば、新しい才能の発掘は絶対に必要。これからの才能を世界に向けて押し出していく「CINEMUNI」のような育成型のプロジェクトは、今この時代にすごく意義のあるものだと思っています。

中島:僕自身、インディペンデントの映画会社が手がけるオリジナル作品で育ってきました。だからこそ、A24やNEONのような海外レーベルが優れたオリジナル作品をどんどん発表し、それが世界で評価されていくのを見ていると、素晴らしいと思う反面、やっぱりどこか悔しい部分がありました。日本にも才能のあるクリエイターの方々はたくさんいる。必要なのは、優れた才能を持った人たちが自由に挑戦できる場だと思っていたので、「CINEMUNI」に関われることは、僕としても非常にうれしいことでした。

 

――アスミック・エースにとっても、「CINEMUNI」のようなクリエイターを発掘・支援していくプロジェクトは久しぶりなのでしょうか。

中島:なかなかないですよね。

山野:そうですね。通常の映画製作と違い、「CINEMUNI」は次世代クリエイターに特化したプロジェクト。第1弾となる『さがす』の公開規模もそれに見合ったサイズで展開しています。様々な市場環境の変化もあり、商業映画では新たなクリエイターのチャレンジの場が減少している現状を踏まえても、商業映画というフィールドで新しい才能にチャンスを提供していく「CINEMUNI」の意味は小さくないと思いますし、アスミック・エースとしても今回のような公開規模の映画企画は久々でした。

 

――とは言え、実績のない監督となると、資金調達の面など難しいところはありそうですよね。

井手:そこで大きかったのがDOKUSO映画館さんとの出会いですね。DOKUSO映画館さんは、インディーズ映画に特化したサブスクリプションサービスを展開するなど、新しい才能の発掘と支援に対して強い関心をお持ちでした。そうした監督の才能を信じて出資をされたいというパートナーと出会えたことで「CINEMUNI」を実現することができました。

 

――DOKUSO映画館さんとはもともとリレーションがあったんですか。

井手:私自身は直接一緒にお仕事をしたことはなかったのですが、弊社とは『おらおらでひとりいぐも』『峠 最後のサムライ』といった作品で出資社として共に名を連ねる関係でした。そういうこともあり、これからの映画界についていろいろとお話しする機会があって。そこで想いを共有し合えたといいますか。同じ志を持っていることを知り、今回、パートナーシップを組ませていただくこととなりました。「CINEMUNI」では、DOKUSO映画館さんとアスミック・エースで予算の大部分を持ち、そこから作品ごとにそれぞれ合ったパートナーさんからお力添えをいただき、製作を進めるという形をとっています。

 

片山監督には日本映画の繊細さと韓国ノワールの熱量がある

――「CINEMUNI」第1弾は、片山監督の『さがす』です。この作品に決まったのは、どういう経緯だったのでしょうか。

山野:片山監督に関しては、この「CINEMUNI」がスタートする前から一緒に映画をつくりましょうというお話はしていて。まさに『さがす』の企画を開発している最中だったんですね。そんな中で「CINEMUNI」のプロジェクトが立ち上がり、これは片山監督にも『さがす』にもマッチするんじゃないかと。

 

――山野さんは、いつ頃から片山監督の才能に注目していたのでしょうか。

山野:片山監督の長編監督デビュー作である『岬の兄妹』ですね。自主映画ながらものすごいクオリティだということは業界内でも評判になっていて。試写を拝見してそのセンスに驚き、僕から声をかけさせてもらいました。

 

――ぜひ片山監督の才能についてみなさんでお話しいただければ。

山野:ご存じの方も多いと思いますが、片山監督はポン・ジュノ監督の助監督を務めた経験があり、その映像表現は日本映画にはないセンスがあります。たとえば暴力描写や性描写のような際どい表現も含めて、オリジナリティのある映像表現や、的確な演出を用いてストーリーの中にぐっと観客を引き込む力がある。映像で物語を語れるセンスこそが、片山監督の才能だと思います。

井手:私も『岬の兄妹』を拝見しました。この作品って、設定上、女性の観客からするとちょっとハードルが高いのですが、実際拝見してみると、本当に人物がいきいきと描かれていて。人間のいいところも悪いところもすべて包み込んだ上で、人が持つ強さを監督は信じているんだなと思いました。この監督は、次にどんなストーリーやキャラクターを描くんだろうと、次回作が楽しみになったのが『岬の兄妹』を観終えたあとの率直な感想でした。

中島:片山監督はポン・ジュノ監督の助監督を務めていたことは有名ですが、それ以上に日本国内の著名監督の現場でも長く助監督を務めていらっしゃるんですよね。そのような経歴もあって、日本映画がこれまで培ってきた繊細さと、韓国ノワールの魅力である熱量の2つが、監督の中でかけ合わさっている。そこが、まさに片山監督だけのオリジナリティだと思います。『岬の兄妹』を観たときも思いましたし、『さがす』の脚本を読んだときも感じました。

井手:「CINEMUNI」で片山監督をという話が持ち上がった際に、プロジェクトメンバーで『さがす』の検討稿を読んだのですが、この才能をなんとかして世に出さなきゃいけないという使命感のようなものが湧いてきたのを覚えています。誰もが『さがす』を映画にしたいと思ったし、片山監督の才能を強く感じた。この1本で終わらず、長く一緒に作品をつくっていきたいというのが「CINEMUNI」の理念。その第1弾として、片山監督とぜひというのが満場一致の意見でした。

 

 

大事にしたのは、監督と二人三脚で並走すること

――そこから『さがす』製作に向けて準備を進められたと思いますが、主演の佐藤二朗さん(以下、二朗さん)のキャスティングは監督主導ですか。それともプロデューサーから?

山野:二朗さんに関しては片山監督です。片山監督は脚本を書く段階から二朗さんを念頭に置いていて。市井にいる普通のおじさんに見えて、でも心の中には闇を抱えている。その二面性をリアリティを持って表現できるのは二朗さんしかいないと。その狙いに強く共感できたので、ぜひ二朗さんにまず出演オファーをしましょうということになりました。

 

――では、娘役の伊東蒼さん(以下、伊東さん)はいかがでしょうか。

山野:娘役については、脚本を作る中でもこの難しい役柄を演じられる中学生がいるのかというのがまず頭の中にありましたね。演技力、生命力、存在感、あらゆることが求められる役柄です。ただ、伊東さんの事務所とは以前からリレーションがあって、素晴らしい才能を持っている若い女優がいるというお話を教えていただいたんです。それが、伊東さんでした。伊東さんのことは僕も『湯を沸かすほどの熱い愛』を拝見していたので存じてはいたのですが、やはり片山監督自身も間近で芝居を見てから決めたいということだったので、一度お越しいただいて。そこで、『さがす』の脚本の一部分を実際に演じてもらったんですね。

 

――どうでした?

山野:驚きました。お芝居をするぞという気張った感じではなく、ナチュラルにその役に入っていく。片山監督のリクエストにも即座に対応していただき、中学生と言えばまだ「子役」と呼ばれてもおかしくない年代ですが、伊東さんは「子役」ではなく既に「女優」で、この年代で唯一無二の方だなとお会いして感じましたね。「娘役は伊東さんしかいないだろう」ということで、一人しかお会いしていないのに即決でした。

 

――片山監督は商業映画としては『さがす』が第1作となります。新しい才能を育成する「CINEMUNI」として大事にしたのはどんなことですか。

山野:片山監督には独自のセンスと世界観がある。その持ち味をスポイルしてしまってはまったく意味がない。監督の作家性を活かした上で、いかに商業映画として成立させるかが僕の役目のひとつでした。僕自身、個性の強いクリエイターが好きなんですよね。そういう監督と出会うと、ついご一緒したくなる。だから、できるだけ監督のビジョンを実現したいという気持ちがありますが、一方で商業映画として、より多くのお客様に届けるための戦略や工夫も必要です。そうしたところを監督とはよく議論しました。ただその中でも、監督と二人三脚で並走していくパートナーでありたいという意識はいつも自分の中で大事にしていましたね。

 

――製作面で大変だったことはありますか。特に商業映画デビュー作ということで資金調達の面でも苦労があったのではないかなと思いますが。

井手:予算に関しては弊社とDOKUSO映画館さんがある程度持たせていただいていて。その上で今回は片山監督がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で優秀作品賞(国内・長編部門)を受賞されていたという経緯もあって、SKIPシティさんから出資をいただきました。あとは韓国からも出資をいただいて。そういう意味でも、片山監督の才能を信じるパートナーのみなさんに集まっていただいたという感じです。
それよりも大変だったのは、コロナ禍での撮影ですね。クランクインは、2021年の2月。二度目の緊急事態宣言下でした。まだワクチンもそこまで広まっていない中、制約を強いられることも多く、その中でいかに監督のやりたいことを可能にしていくかというところは普段とは違う苦労はありました。

山野:感染状況が悪化すると、予定していたロケ場所が急遽お借りできなくなることもある。そうすると、当然、撮影スケジュールも変更を余儀なくされます。そういうリスクを抱えながらの撮影でしたので、常に緊張感をともなっていました。こちらは撮影場所をお借りする立場ですから、移動から現場での感染対策など、常に気を遣いながら撮影を進めていく日々でした。

 

――世界に通用するオリジナル作品をという旗印のもと、走り出した「CINEMUNI」。後編では、現場で感じた片山監督の才能や宣伝の舞台裏、そして「CINEMUNI」のこれからに迫る。

『さがす』公式サイト:https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/sagasu_movie
©2022『さがす』製作委員会