【第2回】「俺、つしま」収益化戦略の本質

【第2回】収益を上げるより、まず楽しんでいただきたい。「俺、つしま」が大切にしたこと

2022.03.22

インタビュー・文:横川 良明

TVアニメ版と同時にスタートしたWebアニメ版「俺、つしま」。配信開始から8ヶ月。着々とファンを増やし、安定した再生回数を誇っているが、その秘密はどこにあるのだろうか。プロデューサーの西、宣伝の田邊、そしてWeb広告を担当した内保の3人に、収益化に向けた取り組みや「俺、つしま」にかける想いを話してもらった。

 

ファン化の秘訣は、視聴者を巻き込むこと

――Webアニメという未知の領域で、ビジネスとして収益を上げていくために、どんな工夫をされたのかを聞かせてください。

田邊 収益化の基本は、再生回数を増やすこと。その方法は、観てくれる人を増やすことと、観た人にもう一度同じエピソードを観てもらうことの2つがあると思っています。

まず前者のためにやったことは、配信開始当初はアニメ好きの方がほとんどで、リアル猫好きの方になかなかリーチできていなかったんですね。この課題を解決するために実施したのが、視聴者のみなさんに飼っている猫の写真を投稿してもらって、採用された猫ちゃんにエンドロールでつしまと共演してもらうという企画でした。

SNSのリアル猫アカウントを見ていても、自分の飼っている猫をいろんな人に見てもらいたい人が多いなと感じたんですね。もし自分の猫が登場したら、きっとアニメも観てくれるはずだし、自分のフォロワーさんにも拡散してくれるだろうと。そこで、エンドロールで写真とお名前を紹介したり、作中に登場するちゃーやオサムと似ている猫を写真で送ってもらって、それをYouTubeチャンネルで紹介するといった視聴者参加型の企画を行いました。

 

西 あとは、みなさんが飼ってる猫の鳴き声を募集して、Webアニメのタイトルコールに使用するという企画もやりましたね。制作のスケジュール上、現在はやっていないんですけど、視聴者の方から「またやってほしい」というコメントもいただいていて。手前味噌ですが、楽しんでいただけたのかなという実感はありますし、そこからアニメそのものにも興味を持ってくださった方もいるんじゃないかなと思います。

 

田邊 一度観た回をもう一度観てもらうための取り組みとしては、定期的にみなさんの好きなエピソードをTwitter上で投票してもらっています。最も得票数の多かったエピソードを紹介することで、再生してもらえるチャンスが増える。さらに、そうやってお客さんとコミュニケーションを重ねていくことで、「俺、つしま」というコンテンツそのものにより愛着を持ってもらえたらと考えています。

 

西 ただ、現実的な話、収益のことだけを考えれば、広告をガンガン挟むのが正解なんですよね。けれど、自分がユーザーだとして、広告がガンガン入るアニメを好きになれますかと言ったらそうではないですよね(笑)。

もちろん最低限これくらいの収益は上げないと制作そのものが難しいというラインはあります。でも何より大事なのは、観やすい環境をつくった上で、みなさんに楽しんでいただくこと。広告に関しては、観てくださる方が純粋に楽しめる範囲内におさめて。あとはいかに「俺、つしま」をもっと好きになってもらえるかに注力していました。そうやって作品を好きなっていただける方を増やしていくことで、結果的に収益につながるのが理想ですね。

 

内保 今、西さんがおっしゃったことと通じる話ではあるんですけど、基本的にYouTubeの広告収入額は「再生回数×1再生あたりの広告単価」で決まるんですね。ただ、この広告単価って動画を最後まで観てくれる人が少なかったら下がりやすいと言われていたりします。

つまり、どれだけ広告で新規のお客さんを連れてきても、その人たちが最後まで観てくれなかったら、広告単価は下がる可能性がある。だから大事なのは、観てもらう人を増やすこともですが、いかに定着してもらうかもなんです。

この点に関しては毎回広告を出すたびに、こういう広告を出したら新規の視聴者数は増えたけど定着率は良くなかったなどデータを細かく分析し、その後の広告展開やクリエイティブに活かすようにしています。

宣伝とマーケの協業によって生まれたフラットな視点

――プロジェクトチームの体制や取り組みで成果につながったところはありますか。

田邊 今回、社内のプロデューサーや宣伝会社だけでなく、自社のマーケティングチームと協働しながら企画を推進していったんですけど、それは良かったなと思っています。私たち宣伝担当は日頃から結果に対して定量的な視点で見るようにしています。ただ、お客さんの口コミなどにふれる機会も多い分、定性的な見方に引っ張られてしまうところも少なからずあって。

マーケティグの方たちは定量データをしっかり分析・検証されるので、ご一緒することで私もちゃんと定量で見ることができたし、フラットな立場からひとつひとつの判断をくだすことができました。

 

西 普段やっている作品だと、私たちアニメ事業部と内保さんのいるマーケティング推進部が一緒になることはなかなかないので、いい機会になりましたよね。宣伝戦略を立案していく上で、市場情報は極めて重要。自社の持っているマーケティングデータを活用していくことで、より有効な宣伝が打てるんだという事例になったし、今後他のアニメ作品をやっていく上でも活かしていける気がします。

 

内保 違う部署の方と一緒に動くことは、私にとってもすごく学びになりました。西さんも田邊さんも以前からお名前は存じ上げていましたが、部署が違う分、なかなかじっくりお話しする機会がなかったんですね。それが今回、ご一緒できたことで、自分にはない視点をたくさんもらいましたし、田邊さんとはその後の作品でもご一緒させていただいているので、社内のメンバーとコミュニケーションを円滑に進める意味でも得がたい経験になりました。

 

――特に今はコロナ禍で社内コミュニケーションが不足しがち。その中で、部署が違う者同士、どうコミュニケーションの質と量を向上させていったんでしょうか。

内保 まずは週1回の定例会でしっかりコミュニケーションをとりつつ、あとは田邊さんはマーケティング推進部も兼務されていたので、その他のミーティングで顔を合わせたときなど必要なポイントでこまめに話ができたのは大きかったと思います。

 

西 あと、今回で言えばTeamsの活用も大きかったんじゃないかなと。「俺、つしま」のグループをつくって、そこでチャット形式でどんどん意見を交換していって。会議、電話、メールという今までのやり方より、チャットの方が気軽にやりとりができたし、その分、意見もいろいろ出しやすかったように思います。まあ、僕は世代的にもいいねボタンを押すので精一杯でしたけど(笑)。

 

今後は海外の視聴者も増やしていきたい

――改めてですが、今回のWebアニメにおいて、それぞれ良かったと思っている取り組みを教えてください。

内保 Googleさんから本作に関するサムネイルや概要欄に対して「素晴らしい」とお褒めの言葉をいただいたんですね。このサムネイルや概要欄に関しては、小野さんという同じチームの方がこだわってつくりこんでいたところで。そういった工夫を外部から評価してもらえたのはありがたかったですし、再生回数や総視聴者数といった面にも少なからずいい影響はあったんじゃないかなと思います。

 

田邊 これは私自身の振り返りになるのですが、私は新卒でキャラクターグッズを展開している会社に就職し、2019年にアスミック・エースに転職しまして。あわせて10年以上、キャラクター業界にいるんですけど、長くいればいるほど、どうしても業界のセオリーに飲み込まれがちなところがあったんです。それを今回、Webアニメという新しいプラットフォームに挑戦したことで、今までのやり方から脱却するいいチャンスになりました。

また、先ほど話したようにマーケティングのみなさんとご一緒できたことで、定量と定性の両方から分析する力を養えたし、定量的データと定性的データを掛け合わせて最適なプロモーション方法を練ることができるようになったかなと思います。

 

西 正直、まだ道半ばなので、これが成功したと言えるものはないのですが、今これだけの方に観ていただけていることにまず感謝していますし、やってきたことが少しは実ったのかなと思っています。

ただ、もっと多くの人に観てほしいというのが、プロデューサーとしての正直な気持ちです。国内に関してはしっかりと観ていただけているという手応えがあるので、今後は海外の方にも観ていただけるよう、すでに字幕対応などはしておりますが、ワールドワイドな展開を進めていきたいです。

 

――では最後に、今回のプロジェクトで得た経験値をどう自分の業務や会社そのものに還元していきたいと考えていますか。

西 今後また新しいウィンドウが出てくる可能性はありますが、少なくとも現時点ではYouTubeは宣伝ツールとして欠かせないもの。それをどう活用していくのか。他のアニメ作品でもしっかりと考えていきたいですし、アスミック・エースは実写映画もやっていますので、そちらの領域にも今回の知見を横展開していければと思います。

 

内保 今や時間帯によってはテレビよりYouTubeの方が視聴時間が伸びているとも言われています。西さんのおっしゃる通り、まさに切っても切り離せないツールになっているので、今回外部のみなさんからいただいた知見をしっかりチームに還元して、今後の業務に活かしていきたいです。

 

田邊 西さんもおっしゃっていますが、今後また違うプラットフォームが出てくることも十分あると思うんですね。経験を積めば積むほど、自分の知らないツールに手を出すのが億劫になる。でも、今回こうやって試行錯誤できたことで、また新しい何かが登場したときも、恐れずトライできる気がします。そういう意味では、変化の激しいアニメ業界を柔軟に生き抜く勇気を得たことが、今回の一番の収穫ですね。

 

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原作/おぷうのきょうだい「俺、つしま」(小学館刊)
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