Project Story

2021.10.07
第2回
第2回
ROOOM

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Project Story#10

「ROOOM」誕生秘話とこだわり

全2回連載

今までにないものをつくりたい。「ROOOM」に込められたパイオニアスピリット

インタビュー・文:横川良明

コロナ禍によって深いダメージを負ったエンタメ業界。先の見えない閉塞感に社会全体が覆われているときだからこそ、このピンチをチャンスに変え、まったく新しいエンターテインメントをつくりたいと、アスミック・エースは考えた。

そんな信念のもと走り出した体験型エンタメ企画、指殺人型ステイルームホラー「ROOOM」。今までにないものをつくり出すという壮大な目標を実現するために、現場のプロジェクトメンバーたちはどんなアクションを起こしていったのか。「ROOOM」に込めたこだわりを、プロジェクトメンバーの竹山、中島の2人の話から紐解いてく。

単に視聴するだけでなく、「参加する」ことで生まれる恐怖体験

「映像×体験」という新しいカテゴリーを切り開いた「ROOOM」。後編では、現場のみなさんが今までにない新しいものをつくるために、どんなトライをされたかを聞いていきたいと思います。

竹山 前編でお伝えした通り、今回の「ROOOM」は「イマーシブシアター」(体験型の演劇作品)がキーワードでした。こうしたイマーシブ型のドラマってすでに海外でもどんどんつくられていますが、その多くが「ここから選択肢です。さあどうしますか?」というようなある種ゲーム感覚のものでした。私は今回、それらとは違う方向を目指したかったんです。

映像作品を観ていると思ったら、気がついたら作品の世界に取り込まれていたような、まったく新しい没入体験を「ROOOM」で提供したかった。そのためにも、映像の中で繰り広げられる主人公・遥香の物語と、お客さんの手元で進むLINEのやりとりを、いかにシームレスにつなぎ合わせるかが今回の大きなポイントでした。

この「ROOOM」だから提供できた体験価値はどんなものがありましたか。

竹山 第1回でも少しふれましたが、やはり「作品に関与する怖さ」だと思います。単に視聴するだけでなく、「参加する」ことで生まれる怖さや後味の悪さは「ROOOM」ならでは。核心の部分にふれてしまうのでここでこれ以上は話せないのですが、きっとこの意味は実際に「ROOOM」に参加していただけたらわかると思います。

そして、この「作品に関与する怖さ」を最大限に引き出すためにも、できるだけ自分が選択肢を“選んで”いることをお客さんに感じさせない設計にする必要がありました。「あなたの一言が彼女を救う。彼女を殺す。」という「ROOOM」のキャッチコピーが無意識のうちに行われているから視聴後の怖さも倍増する。映画感覚でポップコーン片手に喋っていたら、思わぬ事態を引き起こしてしまったという衝撃を感じてもらうことが、今回の狙いのひとつです。

音と映像で観客を「ROOOM」の世界へと引き込んでいく

映像制作の面ではいかがでしょうか。

中島 没入感を高めるためにポスプロ(映像・音声の編集から色調整まで撮影後の仕上げ作業全般のこと)には監督を筆頭にかなりこだわりました。

たとえば効果音ひとつとっても、時間をかけてどういうものがいいか試していて。「ここはもっと大きい音の方がいいんじゃないか」とか「逆にここはもっと音を下げたらどうなるか」とか、音量はもちろんのこと、音を入れるタイミングもかなり何度も調整していましたね。やっぱりホラーにとって音は重要。特に「ROOOM」ではヘッドフォン・イヤホン着用を推奨しているので、音でどれだけ世界観に引き込んでいけるかが、今回の課題のひとつだったと思います。

あとはカラーグレーディング(色調補正)ですね。やっぱり画面の色味で与える印象はがらりと変わります。今回は、マンションに新しく引っ越してきた新婚夫婦が恐怖体験に巻き込まれていくお話。その不気味さを色味からも演出できるようにこだわってつくっていきました。

制作面での新しさを総括すると、体験型エンタメの映像作品としてここまでクオリティを追求できたこと自体が、最大の新規性でした。体験型エンタメという枠内でこれだけシネマクオリティの映像作品はそう見当たらないと思います。

たぶんはじめのうちは体験型エンタメというよりも、普通の映像作品を観ている感覚になってもらえるんじゃないでしょうか。そこから徐々に体験型エンタメの世界に飲み込まれていく。そんな他では味わえない侵食感覚を生み出せたのは、映像の力によるところも大きいのかなと自負しています。

あえて情報を隠すことで、コアファンの興味を引きつける

宣伝に関しては、どんな新しい取り組みがありましたか。

中島 私はこれまで映画の宣伝をやってきて、そこで培ったものにプラスで何を掛け合わせていくかを意識していました。具体的に言うと、宣伝戦略を練るにあたって、ターゲットの設定やコンセプトの策定、ポジショニングに関しては、従来の映画宣伝とベースは同じ。

違うのは、映画であれば公開前に事前にマスコミ向けの試写会数回を行うんですが、「ROOOM」ではマスコミ試写は行わなかったんです。その代わりに7月末にプレスデイを実施しました。ここでまずホラーや体験型エンタメのジャンルで認知度のあるインフルエンサーの方をご招待し、「ROOOM」を体験してもらい、公演の始まる直前から口コミが拡散されていくように仕掛けていきました。

また、情報解禁の出し方も他の作品とは違いました。7月前半に予告編とビジュアルを公開したんですが、ここでは体験エンタメであることも、主演が生駒里奈さんであることも明かしていないんですね。「何か怖くて新しいホラー映画らしいものをアスミック・エースがやるらしい」という情報に留めました。通常の映画であればジャンル感とキャストは最初に必ず打ち出すもの。でもあえてそうしなかった。

その理由は、隠すことで逆に「これはいったい何なんだろう」と思わせたかったからです。最初の情報解禁の段階でわかっているのは、「新感覚のホラー映像エンタメ」であることだけ。まずこのキーワードで引っかかる方たちに、「何かよくわからないけれど、新しい何かが始まるらしい」という期待感を醸成することで、興味を引きたかったんですね。

人間って、やっぱり最初に見つけた興奮って大きいと思うんですね。特に感度の高い方ならなおさらのこと。「新感覚のホラー映像エンタメ」でという情報だけで初回公演に参加した方が、そこで体験型エンタメであることを知り、主演が生駒さんであることを知り、驚きから口コミを広げていくということをイメージしてプランニングしました。このようなやり方は劇場公開の映画では出来ない手法です。

チケット販売から運営まで行うことで見えてきた新たな知見

DX(デジタルトランスフォーメーション:デジタル技術を活用したビジネスプロセスの変革)についても聞かせてください。

竹山 映画配給事業は通常BtoBビジネスです。カスタマーと直接接点をとるのは、私たちではなく劇場。けれど、この「ROOOM」は私たちが直接カスタマーにチケットを販売し、収益を立てるBtoCビジネス。直接カスタマーに何かを販売するという経験が少なかった私たちにとって、チケットの販売から運営まで一貫して行ったこと自体が新しいチャレンジでした。

中でもすごく面白かったのが、力を入れている公式サイトの分析です。このページに辿り着いた人の何割がチケット購入のボタンをクリックしているかというところまでデータが出せるんですね。それをもとに、じゃあここをもっとこういうふうに変えてみたらいいんじゃないかとPDCAをまわしていけるのは、チケット販売まで自分たちでやれる「ROOOM」ならではの有意義な経験でした。

現在、公式ホームページには「ROOOM」の遊び方を簡単に解説するページや、体験型エンタメに精通したプロフェッショナルのみなさんによる座談会もアップしています。これらはすべてサイト分析の上でもっとこういうページがあったらわかりやすいんじゃないかというアイデアのもと、あとからどんどん追加したページです。

中島 劇場公開映画の場合、公開初日に向けて宣伝を組み立てていくのがセオリー。でも、「ROOOM」に関してはむしろ公演初日が宣伝のスタート。お客さんの反応やSNSの口コミを見ながら、どうやってこの面白さを広めていけるか、「ROOOM」を盛り上げていけるかという視点で修正やアレンジを重ねていきました。この経験自体が私たちにとって非常にチャレンジングでした。

パイオニアとしての誇りを胸に、「ROOOM」をさらに盛り上げる

今後の「ROOOM」の展開についてはどんなことを考えていますか。

中島 「ROOOM」はオンライン型体験エンタメだけでなく、映像エンタメという広い括りで見てもまったく新しいチャレンジができた作品。でも新しい分、遊び方がわからなくてチケットを買うのをためらっていらっしゃる方がまだまだたくさんいるなと感じています。そんな人たちにもっとわかりやすく遊び方を伝えられるよう施策は何なのか。

そのひとつの解決策が、YouTuberさんとのコラボレーションだと考えました。YouTuberさんに実際に「ROOOM」を体験していただき、「ROOOM」の遊び方をレクチャーするような動画を作っていただけないか、とYouTuberさんのリサーチや打診などを進めています。

きっと「ROOOM」が目指した新しさって、今後いろんなところで取り入れられていくと思うんですね。私たちのチャレンジが、映像エンタメの可能性をまたひとつ切り拓くもの、その先手になったのではないかな、と。そんなパイオニアとしての自信と誇りを持ちつつ、一方では改善点を冷静に見据えて、さらに「ROOOM」を盛り上げていけるよう力を尽くしていきたいです。

竹山 手探りの中、今までにないエンタメ作品を目指して、プロジェクトメンバーみんなで力を合わせてきました。その結果、初めての取り組みとして非常にいいものができたと思っています。あとはもっと「ROOOM」を知ってもらえるよう宣伝を頑張っていくことと、参加した方々により作品世界に没入していただけるよう、運営のアップデートを重ねていきたいです。

ここの分岐はもう少しわかりやすくした方が良かったかもしれないとか、これくらいさりげない伏線だとそもそも気づいてもらえないんだとか、公演を重ね、参加したみなさんのログを分析していく中でわかったこともたくさんありました。そうした知見をもとに、いつか第2弾がつくれたらいいなと思います。

たとえば次はもっと選択肢によって辿り着く場所が全然違うようなシナリオも面白いかもしれません。まだまだ生まれたばかりの企画だからこそ、大事に育てて、今後のアスミック・エースの柱のひとつになれるようなコンテンツにしていきたいです。

「ROOOM」公式サイト:https://stayrooom.asmik-ace.co.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/stayrooom
© 2021ROOOM/AA

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