第3回/『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』大ヒットの奇跡

2020.04.28

それまでキャラクターを知らなかった大人にも感動を呼び、観客100万人を突破する大ヒットを記録した『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』。関係者へのインタビューを通して、なぜここまでの大ヒットになったかを探る連載も、今回が最終回。

最後は、作品の勢いを広げた宣伝について。公開後に口コミが広まり、大人の男性も多く劇場に足を運んでもらえたのはなぜだったのか。通常とは異なる宣伝プランを立てていった、アスミック・エースアニメ企画部の小野美香と、事業推進部の有吉篤史にインタビュー。原作サイドやファンの気持ちを大切にしながらも、さらにファン層を広げるためにどんな対策を練ったのだろうか。

――最後は宣伝プランと、公開後の現象について伺えればと思います。まずはどのようなところから着想していきましたか。

小野 『映画 すみっコぐらし』は通常の劇場版アニメと比べて、製作委員会に参加されている各社様がちょっと違います。特徴としては、商品を出されている会社さんが多いですね。タカラトミーさんは原作「すみっコぐらし」のおもちゃを発売されていますし、原作の絵本をメインで出版されている主婦と生活社さん。「すみっコぐらし」ファンは物を買われる方が中心なので、そこをフックにしました。基本的には原作の「すみっコぐらし」が好きなファンを大切にする宣伝を心がけました。

有吉 商品がもともと世の中に出ているので、そういった商品を出されているメーカーさんや出版社さんなどを我々がこの映画のプロジェクトチームにしっかり迎え入れ、商品を通して新しい映画があることをしっかりとリーチさせていくという方法を、まずは基本線にしましたね。

小野 当社がやっている邦画などと比べると、宣伝の予算はすごく小さいんです。その代わりに製作委員会各社さんのリソースを活用していただこうと。メインの宣伝方法も、テレビスポットをたくさん打つということはせず、SNSで地道に投稿したりとweb中心でしたね。

――映画の製作が発表されたのはいつでしたか?

小野 初報は昨年2月に行いました。東京ビックサイトで行われたギフトショーにサンエックスさんがブースを出されたので、そこで大きくビジュアルを出していただきました。さらにwebで一斉リリースという形で、「すみっコぐらし」が7周年を迎えて初めて映画になりますということまでを解禁しました。

――最初の情報解禁、どんな反応がありましたか。

小野 原作ファンの方々は「すごく嬉しいけど一体どんな話になるんだろう」と。中でも多かったのが、「キャラクターに声をつけないでほしい」というものでした。すみっコたちが動いているのを見れるのは嬉しいけど、CVという形で声がつくのは、イメージと違う。それぞれみなさんが頭の中で描いているイメージがありますし、すみっコたちは性別も明かされていないですからね。

――宣伝をする上でのターゲットはどのように考えたのでしょうか。

小野 バンダイさんの調査によると、小学校高学年女子のキャラクター人気ランキング1位が「すみっコぐらし」なんだそうです。現在に至るまでにも人気の勢いが増していて、年齢層が下にも上にも伸びてはいるんですけどね。なので、お子さんと親御さん。あとは原作の絵本が20、30代の女性に人気ということを聞いていたので、その2つを基本ターゲットに据えました。ただ、多くの方に映画の魅力を伝えたかったので子供向けの宣伝になりすぎないように意識していました。

――とはいえここまで幅広い層にヒットするとは思っていなかったのではないですか。

小野 大人の男性にも響いたのは驚きました。ここまでバズった要因はSNS上でアニメファンの方たちが話題にしてくれたのがきっかけなのですが、元々ここまで広がると予想はできていなくて。『映画 すみっコぐらし』について呟く人がどんどん増えて、これは見ないといけない作品だと思うようになる連鎖がツイッター上でできたのかなと思っています。

――キャラクターに声がつくのではないかとファンが危惧していた中、ナレーションのお二人が発表された時はどんな反応がありましたか。

小野 すごく歓迎されて、ホッとしました。井ノ原快彦さんと本上まなみさんになったことで、すごく優しい世界が補強されたと感じていただけたようでしたね。驚いたのは、「すみっコたちってアイドルっぽい」という声があったこと。V6の井ノ原さんが関わるというのもよかったみたいですね。そこからは目に見えてファンが増えていったように思います。主題歌が原田知世さんに決まった時の反応もすごくよかったですね。

――宣伝をする上で難しかったことはありますか。これまでの経験と比べてでも。

小野 やっぱりターゲットですね。「ファミリー」と「大人女性」というのはざっくりとあったんですけど、本当はどっちの比率が大きいのかがわからなかった。映画となったときに、どっちをメインで狙ったほうがいいのかはずっと悩んでいました。

有吉 その両方を取りに行こうとすると、どっちつかずになってだいたい失敗するんです。でも今回に関していうと、どっちにも明確な指針を置かずに、ふんわりとした形でやってみたのがよかったようですね。子供向けですよと宣伝すると、大人は入りづらい。そこを明確に打ち出さなかったことで、どなたでも観に行きやすい作品になったのかなと思いますね。

小野 幅広い層にも見てほしかったので、公開後の早めの段階で「男性向け上映会」と「応援上映」を行いました。周囲から「大丈夫? 本当に人集まるの?」とは言われましたけど、大人のファンも来やすい環境を作りたかったんです。ネット上に「観に行きたいけど子供たちだらけのところに行っていいんだろうか」という意見が結構あったので、そこを拾い上げたかったんですよね。一方でファミリーにももちろん見ていただきたいというところで、イオンシネマさんでは、音のボリュームを落とした赤ちゃんと一緒でも見やすい親子向け上映会もやらせていただきました。

――男性向け上映会はいかがでしたか?

小野 新宿ピカデリーさんでやったんですが、完売御礼でした。一人で来てらっしゃるお客さまが多くて、始まる前はドキドキしている雰囲気があったんですけど、上映後に脚本の角田貴志さんと朝日新聞の「すみっコ」大ファンの記者さんとのトークショーを行って。壇上にいる方々もお客さまも、すみっコのぬいぐるみを持ってのイベントでした。終わる頃にはすごくアットホームな雰囲気になっていましたね。ファン同士の交流ができたという声も聞こえてきて、やってよかったなと思いました。

――今回すみっコたちは映画オリジナルの衣装を着ていますが、映画仕様のグッズも準備されたのでしょうか。

有吉 映画って公開期間がTVシリーズよりは当然長くはないので、映画関連商品はどうしても売りにくいというのが正直なところなんです。また、映画の制作が公開ギリギリまで作業していて、どうしてもギリギリまで商品の企画に必要な映画の資料が出てこないので、間に合わずに作れなかったりしますしね。ですが「すみっコぐらし」はもともと多くのすみっコの商品企画の経験が豊富な取引先がいるので、そのみなさんにこの映画プロジェクトに賛同いただけた点が大きかった。たくさんの会社さんが短い期間でも多くの商品を企画していただいたことで、すみっコファンが集まる場所に、一番いい時期に映画の商品を置くことが出来ましたね。映画だとどうしても時間的な制約から作品と商品が連動出来ないことも多いんですけど、今回は公開前からお客さんが商品を手に取れるようにできました。ただ、売れすぎてしまって、在庫がなくなってしまったのは予想外でしたけどね。

――商品も宣伝に取り込めるというのも、「すみっコぐらし」ならではですね。今後もロングランを目指すのですか。

小野 おかげさまで年末年始を超えてもなおロングランの気配を見せています。劇場宣伝としてできることは一通り終わりましたが、この後もDVDの発売や配信などがあると思うので、長く愛していただければ嬉しいですね。

 

映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ:作品詳細はこちら
©2019日本すみっコぐらし協会映画部

インタビュー・文:大曲智子