第2回/『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』大ヒットの奇跡

2020.03.30

観客100万人を突破した劇場版アニメ『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』。キャラクターはあるが原作はない、前代未聞のアニメ化に苦労した制作サイドのインタビューを前回はお届けした。

第2回となる今回も引き続き、アニメーション制作を担当したファンワークス代表の高山晃と、プロデューサーであるアスミック・エースアニメ企画部の竹内文恵にインタビュー。制作中に感じていたプレッシャーとは? そしてアスミック・エース ライツ事業推進部の有吉篤史と井ノ口智裕にも加わってもらい、公開前後に開催された映画宣伝イベントについて詳しく尋ねた。

――今までにないタイプのアニメですが、目指していたものはありましたか。

高山 原作がなく、キャラクターしかなかったことは、私たちにとっても未知の部分でした。「まずショートアニメから様子を見ましょう」というのはよくありますが、いきなり映画にしましょうというのは、あまりない。軸となるのはキャラクターしかなくて、しかもそのキャラがすごく人気がある。それを映画にしましょうとなった時に、埋めるべきものがものすごくいっぱいありました。

――例えば何でしょう?

高山 最初に決めたのはキャラクターのルック。それからやっとセリフや脚本、美術の話になっていったんです。美術監督の日野香諸里さんも、絵本ごとに背景のタッチを変えたりと、日野さんじゃないと出来ないだろうなぁってトライアルをされていて。たとえは「桃太郎」の世界は、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』を彷彿する様な筆のタッチを取り入れたりされてます。ポヨポヨと動くルックも、セリフがないことも、アニメとしては結構実験的なことをやっているんですけど、それらは計算しているようでしていなかったりもする。セッションのように日々現場で変わっていったことが、最後の最後で絶妙なところで折り合ったというのが本当のところなんです。実質的なアニメーションの制作期間も実際は6ヶ月ちょいで(笑)。

竹内 制作期間もすごく短いんですよね。

高山 だからすごく練られた構成とかいう評を読むと申し訳なくなる(笑)。何も考えていない訳ではなかったですし、現場で毎日みんなすごく考えていたんですけど、最後の最後でピンが合ったということなんです。

有吉 キャラクター自体が原作なので、まさに正解がない。原作の漫画やストーリーがあるわけでもないので、ファンに方たちに対しての100%の正解がわからない中で作った映画なんですよね。結果的にご満足いただけたのは、本当にすごいことだと思います。

高山 すごいプレッシャーは感じていましたよ(笑)。タカラトミーさんの展示会に行くとファンの方がたくさん並んでいるし、書店でのキャンペーンもすごい。映画の公開前に「すみっコぐらし」のイベントをやっていましたよね。映画がまだできていないのに、すでに人が並んでいた。これでいざ映画が公開されて、イベント会場にクレームが殺到したらどうしようと思っていました(笑)。そうならなくて本当によかったです。

――映画の公開は昨年11月8日でしたが、その前後である11月1日〜14日に渋谷スペースJにて『映画すみっコぐらし きみもすみっコ?展』が開催されたんですよね。ではここからイベントを担当された井ノ口さんと有吉さんに、イベントについてのお話を伺いたいと思います。

井ノ口 昨年の8月に、渋谷西武のモヴィーダ館7階に、J:COMが「スペースJ」というイベントスペースをオープンしました。そこで『映画 すみっコぐらし』で何か企画ができないかということからはじまり、映画の世界観に入り込めるようなイベントを目指して企画を進めていきました。サンエックスさんが映画とは別に「すみっコぐらし」の展示をやっていたので、それを参考にしながら、例えばすみっコたちの立像を用意して、フォトスポットにしたりということを考えました。

有吉 記念すべき初めての映像化なので、すみっコファンの皆さんがその映像の世界に没入していく、自分も映画のすみっコの世界に入っていくという形にしたいと、僕と井ノ口の二人で企画を立てました。映画を観る前にイベントに来た方には、これからまさにすみっコたちが冒険する、絵本の世界への想像を掻き立てながらの手探りで楽しみつつ堪能していただき、その気持ちを持ったまま映画を観に行って頂きたいと思いましたし、映画をすでに観た方は、初めてのすみっコの映像体験からくる高まりや思い入れを持って再び絵本の世界に入っていただければということを企画意図として作っていきました。

――イベントはどのような客層でしたか?

井ノ口 映画と同じように幅広いファン層に来ていただきましたね。休日はやはりファミリーやお子様連れが多かったですが、平日の夕方以降は男性や女性のお一人様もよくいらっしゃっていました。男性だと30代ぐらいの方が多かったです。香港や台湾からのお客様もいらっしゃったり、本当に幅広くて興味深かったです。

有吉 アジア、特に台湾で「すみっコぐらし」は人気が高いんです。日本で映画とイベントもやることを聞きつけてくれて、来てくださったんでしょうね。会場で商品をたくさんお買い上げくださいました。我々はこういうコンテンツの仕事をしていますが、商品を手にとってもらう風景を見ることって実は少ないんです。すみっコの世界観を堪能した子供たちが商品を持ってレジに並んで行く姿は、まさに感無量でした。

井ノ口 今までアスミック・エースでも、イベントの根幹から関わることはやってこなかったので、今回は当社にとっても初めてのチャレンジでした。映画チームから設定資料などをいただきながら、昨年の3月ぐらいから準備を進めていきました。映画の宣伝にも繋がりますし、今後もこういうことにまたチャレンジしていきたいですね。有吉が言ったように、映画配給の仕事って直接お客さんと触れ合う機会はあまりないんです。今回このイベントを担当したので、私は期間中毎日会場に常駐していたのですが、お子さんがまだすみっコたちを見たくて、帰ろうとする親御さんにせがんでいたり。最終日に「ぜひまたやってください」と言ってくれたお客さまもいらっしゃいました。ツイッターでも「ぜひ地方でもやってほしい」という声もありましたし、本当にやってよかったなと思いましたね。

有吉 僕の想像ですが、井ノ口はこれまで「すみっコぐらし」のような可愛いキャラクターには触れずに生きてきたと思うんです。だけど結果的にすごくすみっコに心を奪われたという。

井ノ口 その通りです(笑)。この可愛い見た目なので、最初は「自分には入りにくいかな」と思ったんですけど、すみっコにいるのが好きという設定は共感できる。知っていくにつれて、自分が見てもいいのかもと思い始めました。イベントは2週間ありましたが、男性の方も多くいらっしゃって、マイすみっコを持って来られたり、一緒に写真を撮っていた方もいましたね。僕もずっと関わるうちに愛着が湧いてきて、イベント最終日には会場で販売していたすみっコグッズを自分用にも買って連れて帰りました。現場のスタッフの方たちも続々と引き込まれていって、中には自身のバイト代ぐらいの金額の商品を買って行ってくれた方もいましたね(笑)。みんな穏やかになる、優しい世界だなと感じました。

有吉 お子さんやファンの方たちが、すみっコの立像と一緒に写真を撮っているのを見て、初日に二人でジーンとなったもんね。

井ノ口 大変なこともありましたが楽しかったですね。お客様がご満足してる声を直に聞けると、疲れも吹っ飛びましたから。アスミック・エースとしても、こうやって映像作品と連動したイベントを今後も増やしていけたらと思いますね。

原稿②前半

映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ:作品詳細はこちら
©2019日本すみっコぐらし協会映画部

インタビュー・文:大曲智子