『音タコ』で味わった、発想力豊かなクリエイター三木聡監督との作品づくり

2018.10.11

『インスタント沼』、『俺俺』など、オリジナリティのあるコメディでファンの多い三木聡監督。約5年ぶりとなる長編映画は、タイトルからインパクトも絶大だ。『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』のプロデューサーを務めたアスミック・エースの山野晃は、今作が初のプロデュース映画。実力のある俳優をキャスティングし、完成にたどり着くまで、どんな想いが山野を支えていたのだろうか。

――三木聡監督5年ぶりとなる映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!(以下、音タコ)』はずいぶん前から三木聡監督が温めていた企画ということですが。

山野 もともと三木さんとは別の企画を進めていたんですが、それがなかなかうまくいかない状況になりまして。その時に三木さんの方から、「このまま終わりじゃ寂しいから、何か別の企画をできないか。山野さんはどんな企画をやりたい?」と聞かれたんです。そこで「僕は『エターナル・サンシャイン』のような奇抜なラブストーリーが好きなんです。日本でそれができる監督ってそういないと思うんですが、三木さんとそうした企画をやりたいです」と提案したところ、三木さんがニヤリと笑って、「実は前から書いている脚本がある。それを読んでくれないか」と。それがこの『音タコ!』でした。読んだら一瞬でこの脚本の虜になった。三木さんってゆるいコメディーのイメージがありますが、『音タコ!』はそれまでの三木作品よりも強いメッセージ性があって、テンションも高い。これは今までに見たことがないような作品になる・・・そう思って、絶対にやりましょうということになりました。

――声帯ドーピングで驚異の歌声を出しているロックボーカリストと、声が小さすぎるストリートミュージシャン。この二人がほとんど出ずっぱりと言っていい物語ですが、キャスティングはどのように?

山野 この映画は、声を絞り出しているロックスターのシンを誰がやるかにかかっていると思ったんですが、正直かなりブッ飛んだキャラクターなので、やれる人がいないんじゃないかなと。歌が歌えてコメディーの演技もできて、主演として軸になれる人なんているんだろうかと思った時に、「一人だけいる!」って。それが阿部サダヲさんだったんです。なんと言ってもグループ魂のボーカルですからね。三木さんからも「阿部さんはどうだろう」とのことだったので、すぐにお願いしに行きました。オリジナルの脚本って原作ありのものと違って企画のバリューが判断しづらいので、なかなか社内で企画が通りにくいんですが、まず主演が阿部サダヲさんに決まったことで、社内でも「これはいいんじゃないか」という雰囲気になりましたね。

 

――声が小さすぎるストリートミュージシャン明日葉ふうか役に吉岡里帆さんがすごくハマっていますが、こちらはどのように?

山野 三木監督から「俺は若い役者を知らないから、候補を出してほしい」と言われたんです。「知名度や実績ではなく、公開時期にブレイクしているような、可能性を秘めている人に賭けてみたい」と。ふうかというストリートミュージシャンは、物語の中でもこれから世に出ていく、今はまだスポットライトを浴びていないキャラクター。その役柄に三木さんもキャスティングと重ねあわせた部分があったと思うんです。

――難しいミッションですね。

山野 過去の実績にとらわれずに考えて、これから輝きを放とうとしている女優さんはいないか・・・と改めて考えたときに、ちょうど僕が見ていた『ゆとりですがなにか』と『カルテット』というTVドラマ、両方に出ていた吉岡里帆さんが気になりました。クセ者感というか、見た目は可愛いけどどんなキャラクターにも染まれそうな感じ。三木さんってこれまで、麻生久美子さんや上野樹里さん、吉高由里子さんなどを抜擢してコメディエンヌとして開花させていますよね。今度は吉岡里帆さんがそういう風になったらいいなと思いました。ただ、こんなに早いスピードでブレイクするとは、その時はまだ想像できていなかったですけどね(笑)。

 

ーー映画を作る上で大切なものとして、プロデューサーと監督の信頼関係があるようですね。

山野 プロデューサーって微妙な立場で、やっぱり現場のスタッフは、まず監督の方を向いて仕事するわけです。何かわからなくなったときは、まず監督に意見を聞くし、現場を統率するのは監督なので。だけどプロデューサーだけは、監督に嫌なことも言わないといけない。「これだとお客さんは理解できないと思います」とか、「多くの人に観ていただくにはこういう方向にしたらどうか」とか。三木さんのように個性的なクリエイターからすると、そんなこと言われずに好きにやりたいはず。今回もだいぶ好きにはやっていますけどね(笑)。僕より年もキャリアもずっと上の人に「こうした方がよいのでは」と言わないといけない。お客さんに届けるまでの全体を考えることがプロデューサーにとっては大事だと思います。

ーー最初に脚本を読んだ時の「面白い!」という気持ちで、最後まで突っ走れたんですね。

山野 本当にそうです。だから最初にピンとこなければ、僕は絶対にやらないようにしています。自分が本気で「見たい」「作りたい」「見たことない」と思えないと。映画って企画から公開まで最低でも1年半はかかる。好きでもないもののためにそこまでできないですよね。100人中99人が「これどこが面白いの?」と言っても、「これが面白いんです」って言えないといけないと思っています。映画はまず、自分の熱い思いありきですね。

▼映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』について
出演:阿部サダヲ 吉岡里帆
千葉雄大 麻生久美子 小峠英二(バイきんぐ) 片山友希 中村優子 池津祥子 森下能幸 岩松了
ふせえり 田中哲司 松尾スズキ

監督・脚本:三木聡(『俺俺』、「時効警察」シリーズ)  音楽:上野耕路
主題歌:SIN+EX MACHiNA「人類滅亡の歓び」(作詞:いしわたり淳治 作曲:HYDE)(Ki/oon Music)
ふうか「体の芯からまだ燃えているんだ」(作詞・作曲:あいみょん)(Ki/oon Music)
製作:映画「音量を上げろタコ!」製作委員会  制作プロダクション:パイプライン 配給・制作:アスミック・エース
ⓒ2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

驚異の歌声をもつ世界的ロックスター・シン(阿部サダヲ)と、声が小さすぎるストリートミュージシャン・ふうか(吉岡里帆)。正反対の2人は偶然出会い、ふうかはシンの歌声が“声帯ドーピング”によるものという秘密を知ってしまう! しかもシンの喉は“声帯ドーピング”のやりすぎで崩壊寸前!やがて、シンの最後の歌声をめぐって、2人は謎の組織から追われるはめに。リミット迫る“声の争奪戦”が今、はじまる!!!

インタビュー・文:大曲智子 写真:秋元俊一