Project Story

2018.03.10
第1回
第1回
関ヶ原

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Project Story#2

ヒットの裏には宣伝チームの戦略あり! 映画『関ヶ原』が多くの観客に届いた理由

全4回連載

鈴木崇史(宣伝プロデューサー)と佐藤みなみ(宣伝)が語る、ヒットの仕掛け方

*インタビューアー:上田智子 *写真:秋元俊一

2017年8月に公開し、興行収入24億円の大ヒットを記録した映画『関ヶ原』。本作をヒットに導いた「宣伝」は、アスミック・エースの親会社であるJ:COM内でも高く評価された。原作・司馬遼太郎、監督・原田眞人、主演・岡田准一の超大作時代劇アクションを、どのような戦略で宣伝したのか? 映画宣伝歴14年の鈴木崇史(宣伝プロデューサー)と、宣伝歴5年の佐藤みなみに語ってもらった。(全4回)

【映画宣伝という仕事】

どんな映画でも、「宣伝」がなければ観客の目に触れることはない。そう言い切ることができるほど重要な位置にある「映画の宣伝」とは、そもそもどんな仕事なのだろうか。

『関ヶ原』で宣伝プロデューサーを務めた鈴木は言う。
「“完成した映画をお客様にどう届けるか?”“劇場に足を運んでいただくために何をするべきか?”を考える仕事です。予告編作り/ポスター、チラシを作って、劇場に手配する/キャストや監督の取材をブッキングし、テレビや雑誌で告知をしてもらう/テレビCMやタイアップのプランニング/イベントの運営と実施……などなど、その映画に関する世の中に出るすべてのものは、宣伝部が担っています」

宣伝業務は、以下のような流れで行われる。

製作宣伝(撮影現場での取材など、映画の製作過程に行う宣伝のこと)

初号試写

宣伝コンセプト決定

予告編、チラシ、ポスター作り

マスコミ試写開始。紙・WEB媒体の取材

完成披露

テレビ番組への出演、タイアップ

劇場公開

アスミック・エースでは、作品ごとに数人のチームを組んで宣伝を担当する。先頭に立つ「宣伝プロデューサー」は、その映画をどうやって売っていくか?を決める責任者で、「宣伝コンセプト」をプランニングし、関係各所(会社、キャスト、スタッフ、製作委員会)に共有する。『関ヶ原』の宣伝チームは4人。さらに、「マーケティング」と呼ばれる部署が電波(TVなど)やウェブの出稿やタイアップを担当し、テレビ番組や雑誌媒体への売り込みは外部のパブリシティ会社に委託した。

【「エンタメで推そう!」 『関ヶ原』の宣伝戦略】

「今までで一番悩んだ作品かもしれません」と鈴木が語るとおり、『関ヶ原』の宣伝コンセプトを作るのは困難を極めた。通常は初号試写を観て宣伝コンセプトを考えるが、本作は初号試写の4ヵ月前からラッシュ(仮編集の映像)を何度も見て打ち合わせを重ねたという。「関ヶ原の合戦」は歴史の教科書にも載っている有名な史実だが、詳細を知る人は少ない。また、「感動する」「笑える」「泣ける」「サスペンス」「コメディ」「ラブストーリー」など、一言で説明するのが難しい。一体、どのように宣伝していけばいいのか?

佐藤「一言で言えない映画は、口コミで広がりにくいんです。そこで、一般の方へ向けた試写会をあまりやらないようにしよう、と最初に決めました。“すごそうな映画だから観に行きたい”という飢餓感をあおろう、と」

共同配給の東宝とも、それぞれの意見の兼ね合いをつけるために、何度も話し合った。

鈴木「それぞれ映画会社に宣伝のカラーもあって、僕たちは”映画を観た人に、どういう気持ちになってもらいたいか?”という心情を含めた宣伝をメインに考えましたが、東宝さんは”わかりやすく間口を広げてお客様に届ける”ことを重要視したほうがいいのでは、とのアイデアをいただきました。そこから、話し合って、考えに考え抜いて、最終的な宣伝コンセプトは“エンタメで推そう”と決めました。“歴史大作だけど、難しくないよ。エンタメとして面白いんだよ!”と」。

そして、【「愛」と「野望」、激突!】というコピーと、「超大作スペクタクル・アクション」というキャッチで、宣伝を展開していった。

【『関ヶ原』「ならでは」の宣伝】

時代劇かつ、超大作スペクタクル・アクション映画ならではの宣伝とは、一体どんなものだったのか。宣伝チームの戦略の一部を、以下に紹介する。

・「超大作映画という印象を強くする」
鈴木「ド派手な完成披露イベントをやりました。野外にレッドカーペットを敷いて、甲冑隊が大砲と火縄銃を打ったんです。最初からやりたいと思っていたイベントなんですが、本番直前まで雨が降っていたのでヒヤヒヤしましたね。晴れなかったら、中止でした(笑)。さらに、“迫力ある劇中映像”を使った予告編とテレビスポットを数パターン作り、ワクワク感をあおりました」

・「時代劇だからこその取材」
佐藤「雑誌『歴史人』や、チャンネル銀河のウェブ媒体『歴人マガジン』など、歴史に強く、今まであまりおつきあいのなかった媒体さんに取材していただきました。岡田准一さんに出ていただいたバラエティ番組で、彼の馬術のすごさや身体能力の高さ、合戦シーンの迫力をアピールしたりもしました」

・「史実をわかりやすく説明」
佐藤「関ヶ原の合戦とは何か?をわかりやすく説明するチラシと映像を作りました。授業で習ったけど、詳しく知らない人がけっこう多いので、映画の導入になればいいな、と」

・「全国的な露出」
鈴木「タイアップを全国的に展開しました。映画ビジュアルと、5秒の映像を作って、『好きなように使っていいですよ』と全国にまいたんです。すると、各地の企業がのってくださったんですね。5秒、映画のスポットが出たあとに『こちらでも天下分け目の決戦があります』と企業独自のCMが流れたり、映画のポスターと同じようなビジュアルの企業のポスターを並べてコラボしていたり。ひらかたパークは、岡田准一さんが園長なので、全面協力してくださいました(笑)。また、今回は製作委員会が多くて、18社の大きなチームでした。新聞社、代理店、ウェブの会社、ゲーム会社など幅広い上、それぞれが最大限のことをやってくださって。大量な露出で、作品の良質感を押しだしてくださり、作品としての品質保証ができました」

様々な工夫をしながら宣伝を仕掛けたが、公開直前まで宣伝チーム内で相談し続けたという。
佐藤「我々はよく“最後の一押し”と言うんですけど、役者さんにテレビ稼働してもらった時に、どんなことを言ってもらおうか?など、最後まで考え続けましたね」

結果、『関ヶ原』は興行収入24億円の大ヒット。その要因を二人はこう分析する。
佐藤「公開日もよかったんだと思います。同時期の公開映画に、大人が楽しめる重厚感のある作品があまりなかったので、大人の方々が劇場に来てくれたんじゃないかなあって。2週連続1位で、『ワンダーウーマン』も超えたのが嬉しかったです」

鈴木「最初から10代20代もターゲットにした宣伝にすると、どっちつかずになるので、まずは歴史好きと年配の方にちゃんと届けるのが大事だと思っていたんです。そこから年齢層を広げていったことが、うまくいったんだと思います。タイアップで地方に広がり、新聞で年配の方に届き、佐藤が言うように歴史系の媒体さんの取材をこまめにやったりしたことで、たくさんの方が観てくださったんだと思いますね」

【映画宣伝の醍醐味】

佐藤は言う。「宣伝って、本当に地味で細かい作業の連続なんです(笑)」。仕事は多岐にわたり、作品への理解と、様々なアイデアと、細やかさが求められる宣伝。その中で、醍醐味を感じる瞬間とはいつなのだろうか。

鈴木「やっぱりヒットした時が一番嬉しいですよね。『関ヶ原』は初日舞台挨拶の支度をしているあいだに、各地から良い数字の報告が入っていたんですけど、僕は『いや、まだ信じない』って言ってたんです。佐藤も、『プロデューサーがすごいヒットだって言ってるよ』って言っても、『いや、私はまだ信じませんから』って(笑)」

佐藤「みんな良いことしか言わないから、疑り深くなっちゃうんですよね(笑)。初日の打ち上げで、初めて信じました」

鈴木「僕もです。初日の打ち上げの時、東宝の営業の方からリアルな数字を聞いて、初めて心から喜びました。キャストもスタッフもみんな大喜びしていて、嬉しかったですね」

『関ヶ原』について

出演:岡田准一 有村架純 平岳大 東出昌大 / 役所広司

北村有起哉 伊藤歩 中嶋しゅう 音尾琢真 松角洋平 和田正人
キムラ緑子 滝藤賢一 大場泰正  中越典子 壇蜜 西岡德馬
松山ケンイチ 麿赤兒 久保酎吉 春海四方 堀部圭亮 三浦誠己
たかお鷹 橋本じゅん 山村憲之介 宮本裕子 永岡佑 辻萬長

原作:司馬遼太郎「関ケ原」(新潮文庫刊) 監督・脚本:原田眞人
製作:「関ヶ原」製作委員会  配給:東宝 アスミック・エース

「愛」と「野望」、激突!
日本の未来を決した、わずか6時間の戦い。
誰もが知る「関ヶ原」の誰も知らない真実―――
公式サイト:http://wwwsp.sekigahara-movie.com/

Blu-ray&DVDセル発売中&レンタル中!(発売元:アスミック・エース 販売元:東宝)