中国公開&中国リメイク契約も決定! 映画『君と100回目の恋』が誕生し、海を越えるまで【第2回】

2017.10.27

2017年2月4日に全国公開した映画『君と100回の恋』。アスミック・エースがオリジナル作品として立ち上げた本作は、監督に『黒崎くんの言いなりになんてならない』『君の膵臓を食べたい』の月川翔、W主演にmiwaと坂口健太郎を迎え、大ヒットとなりました。台湾、タイ、韓国で公開されるのと同時に、外国映画の輸入本数に上限があるため参入が難しいとされる中国でも公開、さらに中国でのリメイク契約も決定。10代を中心にグローバルな支持を得た『君と100回目の恋』が「できるまで」と、「中国公開&中国リメイク契約の快挙」、「月川翔監督との仕事」を、全3回でお送りします。

【アジアへの広がり】

映画『君と100回目の恋』は、日本で公開する前のタイミングに、アジア各地での公開が決定した。最初にオファーがあったのは、台湾。そして、韓国、中国、タイと続き、海外バイヤーから予測を上回る反響があった。

井手「この映画は売れている原作でもなく、その当時は監督もキャストもアップカミングというタイミングで、アジア各国で売れる理由がよくわからなくて。何度も『間違いじゃないの?』って確認しました(笑)。実際は、タイムリープするSFテイストの物語とそれにシンクロする音楽に共感してくれたようですけどね。アジアでは日本のアニメがすごく人気なので、感情の育ち方が、日本人と近い部分もあるみたいです」

海外セールスにおける交渉を担当するのは、メディア事業本部・コンテンツ販売部・海外事業グループの加藤舞だ。彼女は、京都にある東映太秦映画村に勤務していたこともある、ちょっと変わった経歴の持ち主。その紆余曲折な仕事歴を聞いてみよう。

加藤「イギリスの大学院を卒業後、一番最初は日本政府観光局に入り、空港などで配布されている海外旅行客向けの地図やパンフレットの編集をしていました。でも、もともと映画の仕事がやりたかったので、学芸員の資格を取って、とあるミュージアムで映画・映像部門のお手伝いを始めたんです。そこで、当時そのミュージアムと共同研究をしていた慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構の先生から『ミュージアムでの映像展示や活用について研究しないか?』と誘っていただき、ミュージアム・インフォマティクス(博物館情報学)という分野があることを知って、1年半ほどリサーチアシスタントをしました。そしたら、先生を通じて京都の東映太秦映画村の「お化け大学校」というイベントを取材して英語で記事を書いてほしいという依頼が来たんです。その時はちょっと京都旅行に行くくらいのつもりだったんですけど、映画村の方とのお話が面白くて。ご縁あって2009年から東映太秦映画村の運営会社に転職、そこから4年半京都太秦で働きました。映画村での仕事は、海外誘客。アニメ『一休さん』が中国で大人気なので──ちなみに「イシュー」って発音します──京都のいろんな施設や企業から協力を仰いで、『一休さん』キャラクターを使った20分程度の観光ビデオを作ったりしましたね。あと、京都ヒストリカ国際映画祭という時代劇をテーマにした映画祭の運営やプログラミングもやっていました。京都の太秦の人たちはあたたかいし、仕事にも夢中になってしまって、1年ほどで帰るつもりが、意外と長く居座ってしまいました。その後、東日本大震災のタイミングでいろいろ考え、家族のいる関東に戻り、2014年に東京の映像会社に転職。2016年の3月にアスミック・エースに転職しました」

【中国進出の経緯】

アジアの中でも、外国映画の輸入本数に上限がある中国は、参入が難しい。邦画の実写映画としては、2016年に『寄生獣』と『ビリギャル』が約5年ぶりに公開され、『君と100回目の恋』はそれに続く快挙となった。さらに、中国でのリメイク契約も締結。それぞれの交渉は、これまでにない経験だったという。

加藤「まず、昨年9月のトロント映画祭に参加した上司が、中国の映画会社HUAHUA MEDIAと商談をして繋がってくださったんです。先方の担当が日本のポップカルチャーを好きな方で、この作品に強く興味を持ってくださったみたいです。

リメイクに関しては、映画のクランクアップ直後に打診があり、昨年の10月に、契約先のLinekong Pictures CorporationからCEOとプロデューサーが来社して、意見交換をしました。権利ビジネスの商談というよりは、コンテンツそのものに対する話が中心で、『どういうふうにこの話を作ったのか?』『この映画で譲れない部分は?』ということを訊かれましたね。井手さんから『音楽と物語がシンクロしながら変化していく映画を目指した』と説明すると、中国側も『私たちもそう思う』『そういう映画を中国でも作りたい!』って。企画書と、中国人監督・キャストのリストも持ってきてくれて、『この子は歌えるからいいと思う』とか、とにかく熱意がすごかったんです。

中国との交渉は初めてでしたし、公開とリメイクのどちらを先に進めるべきかもわからないので、そのタイミングで慌てて、アドバイザリーの会社と相談しながら両社と調整をして。だから、ほぼ同時期に中国公開と中国リメイク契約は一気に決まったんです」

 

【ドラゴンシールを追い求めて】

映画会社HUAHUA MEDIAとライセンス契約を結んだものの、映画の興行に関する商習慣があまりにも違いすぎることに驚いた。まず、もちろん中国当局の許可がでないと、公開も配信もすることができない。検閲は厳しく、複数の審査を通らなければならない。

 

加藤「中国では、日本の映画は2社の配給会社からしか配給できないんです。私たちが契約したHUAHUA MEDIAは自分たちで配給ができないので、当局の検閲だけでなく、それらの配給会社の審査も入ります。」

井手「昔、上海映画祭に行ったときに、中国の方に『日本は少女漫画原作の映画がいっぱいあるけど、なかなか公開できない』という話を聞いたんです。何故かというと、中国では大学生になるまで恋愛禁止で、中高生の恋愛が見つかると、親が学校に呼び出されて怒られるそうなんですね。その点は『君と100回目の恋』も大学生のラブストーリーだったから大丈夫だったみたいです」

加藤「最終的に当局から『じゃあ、何月何日に公開していいですよ』という公開日許可をもらわなきゃいけないんですけど、その許可証が“ドラゴンシール”と呼ばれていて。検閲を通る映画はたくさんあるんですけど、ドラゴンシールをもらうのが難しいんですよ。私たちも、ツアーまで組んでいたのに1度リジェクトされたんです」

井手「中国国内で公開できる海外映画の本数が決まっているので、ハリウッド映画を先に公開したかったみたいです」

加藤「中国では映画産業全体を見ながら公開する映画を調整しているらしいんですよね。例えば海外映画の興行が強いとき、国産映画の興行を伸ばすために海外映画の公開本数を減らしたり。今年8月は中国が国産映画の公開に注力していたので、7月に『君と100回目の恋』を公開することができてラッキーでした。今は韓国映画が規制を受けているタイミングでもあるので、いろんなラッキーが重なってるんです」

 

ちなみに、最後の検閲審査・公開日許可証の「ドラゴンシール」とはどのようなものなのだろう。

井手「どんなシールなんだろう?って、みんなですっごく期待してたんですよ」

加藤「そしたら、普通の書類で (笑)。しかもHUAHUA MEDIAの担当者が喜んで急いで送ってくれたのでカラーではなく白黒スキャン。あれ、私たちが追い求めていたものはこれだったのか……って(笑)」

井手「てっきり香港映画に出てきそうな竜をあしらったシールが来ると思ったら、全然違ったよね」

加藤「みんなでドラゴンシールをもらったら額に入れてオフィスに飾ろうって言ってたんですけど、これだったら、まあいいかなって話になりました」

 

【アジア展開で見えたこと】

2017年7月6日、中国で無事に『君と100回目の恋』が公開された。

 

加藤「公開までの展開は、思ってもみないことがどんどん起こるので大変でした。打ち合わせで決めたこともすごいスピードでどんどん変わるので(笑)」

井手「たとえば、ネットで小さく使うという条件で、解像度が低いスチール写真の使用許可を出したのに、キャンペーンに行ったら、その写真がものすごくでかいポスターになっていたり……」

加藤「『たぶんできるかも』が向こうにとっては『できる』になって物事が進んでいたり。戦いの日々でしたね(笑) 他の国とはそういう戦いはあまりないんです。だからある意味、いろんな工夫をしてくれているということでもあるんですよね」

井手「ちゃんとヒットさせようと努力してくれてるんだよね、きっと」

中国リメイクは2018年の撮影を目指して進んでおり、井手プロデューサーは「オリジナル版より絶対に面白くしてほしい」と伝えている。

井手「もとの作品を作り替えるのだから、さらに面白くできる余地があると思うんです。脚本の大事なところさえ守ってもらえれば、自由に考えて欲しい。私たちと感覚が近いようで、全然違ったりするんですけどね。余韻だと思っている部分も、『長い!』って言われたりするし(笑)。リメイク版はまだまだこれからなので、どんな映画になるのかすごく楽しみです」

中国公開&中国リメイク契約が実現したことで、ふたりの映画人としての意識も変化したという。

井手「日本の観客に向けて作っていたものが、アジア全体で面白いと思ってもらえる映画に意図せずなりました。でも、これからはドメスティックな範囲で考えるのではなく、アジアや世界でも面白いと思われる物語を作りたいと思うようになりました。本当に面白い物語は、国を超えるということを、私は初めて経験できたので。それはアスミック・エースだけじゃなく、きっと映画業界全体で意識しないといけないことですよね」

加藤「そうですね。中国公開もリメイクも契約が特殊というか複雑だったので、今後また新しい海外案件のチャレンジが来たときに必ずこの経験が役に立つと思います。私たちも、これからは既成概念にとらわれずにいろんな可能性を模索して、それを実現できるように知識と経験を重ねていきたいです」

 

(次回、「月川翔監督とアスミック・エースの関係性」について)

 

▼『君と100回目の恋』について

出演:miwa 坂口健太郎
竜星涼 真野恵里菜 泉澤祐希 太田莉菜 大石吾朗 堀内敬子/田辺誠一
監督:月川翔(『黒崎くんの言いなりになんてならない』) 脚本:大島里美(『ダーリンは外国人』)
製作:「君と100回目の恋」製作委員会  制作・配給:アスミック・エース
彼女の運命を変えるため100回人生を捧げようとした彼と、
彼の1回の未来を守るため自分の運命を決めた彼女の物語。
日本中が<一途男子>に恋をする!歌姫の想いに、奏でられるラブソングに涙!時をかけめぐる純愛映画。
公式サイト:http://kimi100.com/

▼井手陽子プロフィール

映画製作部プロデューサー。『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(2009年)、『のぼうの城』(2011年)、『海月姫』(2014年)、『マエストロ!』(2015年)などを担当。
サイバーエージェントの新卒一期生として入社し、ネット広告事業に携わる。
その後、クロックワークスで映画に関する業務を一通り携わった後、2008年にアスミック・エースに中途入社。
2018年に最新作『羊の木』の公開が控えている。

 

▼加藤舞プロフィール

2005年イースト・アングリア大学大学院映画・テレビジョン研究科修了。
その後、(独)国際観光振興機構(現日本政府観光局)、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構、(株)東映京都スタジオ、(特非)映像産業振興機構、(株)東北新社を経て、2016年にアスミック・エースに中途入社。映画やテレビ、アニメなどの海外セールスを担当している。