Project Story

2021.10.06
第1回
第1回
ROOOM

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Project Story#10

「ROOOM」誕生秘話とこだわり

全2回連載

「ROOOM」はいかにして生まれたか。未開拓の市場に踏み込んだアスミック・エースの新しい可能性

インタビュー・文:横川良明

2021年夏、アスミック・エースからこれまでにないコンテンツが誕生した。それが、体験型エンタメ企画、指殺人型ステイルームホラー「ROOOM」だ。

オンライン体験型エンタメ×ホラー映画。それは、『リング』『スクリーム』『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』『ソウ』『戦慄迷宮3D』など、今までになかった数々のホラー映画を世に送り出してきたアスミック・エースの強みと、オンライン体験型エンタメというアスミック・エースの歴史の中でも前例のない分野を融合させた、まったく新しい挑戦だった。

LINEのチャットルームでの会話によってストーリーが分岐するマルチシナリオ。部屋の中という身近な場所で味わう戦慄の恐怖体験。ホラー映画ファン、体験型エンタメファンを続々と夢中にさせる「ROOOM」はいかにして生まれたのか。

「ROOOM」の体験設計・プロデュースを手がけたホラープロデューサーの夜住アンナ(BAKERU)と、アスミック・エースの田邊にその誕生秘話を語ってもらった。

コロナ禍というピンチを、ビジネスチャンスに変える

映画配給会社であるアスミック・エースが、オンラインコンテンツに取り組んだのにはどんな理由があるか、その背景からまずはお聞かせください。

田邊 きっかけは、コロナ禍です。ステイホームにより、家で楽しめるオンランコンテンツが急増。この新しい市場で私たちにも何かできることはないかと考えたのが、最初の出発点でした。弊社は映画やアニメなど既存コンテンツの配信はこれまでにもやってきましたが、オンラインでしか味わえない全くあたらしいオリジナルコンテンツの制作――しかも体験型の要素を取り入れたものとなると、初めてのこと。不確定な部分も多く、不安や戸惑いはありました。

一方でそれ以上に、コロナ禍によってエンタメ業界全体が試行錯誤する中、ピンチをビジネスチャンスに変えたいという強い意志もありました。そこで、この未知なる挑戦を成功させるべく、普段は別々の部署にいるメンバーたちが集結し、部署横断型の新プロジェクトとして、「ROOOM」の企画がスタートしました。

「オンライン体験型エンタメ」という新しい挑戦をする際にホラー作品を選ばれたのには、どんな理由があるのでしょうか。

田邊 企画当時、『ミッドサマー』や『事故物件 恐い間取り』といったホラー映画が話題を呼んでおり、弊社出資作品の『犬鳴村』が興行収入14.1億円というヒットも記録していました。そうしたホラー市場の活況に加え、もともとホラー作品自体、『リング』を筆頭に弊社には長年にわたる実績とノウハウがあります。オンラインコンテンツという未踏の領域に挑むにあたって、ホラーなら自分たちの強みを活かせるのではないかと考えたのが、一番の理由です。また、後ほどご説明しますが、コンセプトの一つに「ファンベース」というキーワードがあります。ファンが作品にコミットし、口コミでヒットしていく傾向のあるホラーはベストなカテゴリーだと考えました。

ちょうどその頃、弊社のメンバーがいろんなオンライン体験型エンタメに参加していて。その中でも特に印象的だったのが、夜住さんが手がけられた「イキサキ探し」だったんです。そこで、夜住さんが所属していらっしゃるBAKERUさんとなら何か新しいことを一緒にできるのではないかと思い、オファーをさせていただきました。

企画の骨子を固める上で大事にしたことは何ですか。

田邊 2つキーワードがあって、まず1つめが「イマーシブシアター」(体験型演劇)です。これまでもオンラインの映像コンテンツで分岐型の作品はいくつかあったのですが、大半がある分岐点に差しかかったときに、観客に選択肢を提示して選ばせるというスタイルのもの。ですが、私たちはもっと圧倒的に観る人を作品にコミットさせたかった。そこで、どうすればより「没入感」を高められるかということを徹底的にこだわりぬきました。

そしてもう1つのキーワードが「ファンベース」(ファンと一緒に作品やビジネスを作っていくという考え方)です。参加した観客の口コミによって作品が広まっていくということはもちろん、この「ROOOM」に参加する体験そのものがファンベースである。そんな作品になることを目指して企画をブラッシュアップしていきました。

LINEという身近なツールだからこそ、新しい恐怖体験を生み出せると思った

では、ここからはアスミック・エースとBAKERUさんのコラボレーションについて聞かせてください。夜住さんは、アスミック・エースからまずどんなリクエストを受けたのでしょうか。

夜住 「映像×体験」というカテゴリーでまったく新しいものがやりたいというのが前提にありました。その上で、とにかく怖くしたいと。ただそれもお化け屋敷のように突然お化けが現れて驚くというような怖さではなく、「ROOOM」に参加することそのものに怖さを感じるような、何か恐ろしいものに関与してしまった恐怖を感じられるものにしたいというイメージは、最初の段階からありました。

それに対して、夜住さんはどんなアイデアを考えましたか。

夜住 まずこうしたオンライン体験型エンタメでは、お客さんが使いやすいツールを用いることが絶対条件。ですので、最初はZOOMを使って何かすることも検討していたんです。ですが、参加ハードルを下げるためには、より身近なものの方がいい。そこで出てきたのが、LINEというアイデアでした。

こうしたオンライン体験型エンタメの課題としてあるのが、どうしても非日常になりにくいということなんですね。リアルイベントだと、お客さんに会場まで直接足を運んでいただくかたちになるので、自然と世界観に入り込める。だけど、オンラインの場合は家から参加することがほとんど。部屋の中だと、いろんな日常的なものが目に入るし、それが没入感を妨げるノイズになるんです。

でも逆に言うと、スマホのようにいつも部屋の中にある身近なものが作品の入り口になっていたら、それ自体を持っていることがなんだか怖く感じてくる。そういう恐怖体験の幅を広げるという意味でも、LINEは面白いんじゃないかと思いました。

実際にLINEを参加者および作品の登場人物とのコミュニケーションツールとして採用したことで、実在の人物とコミュニケーションを取っているかのような没入性を生み出すことに成功し、これはZOOMという装置では実現できなかった体験価値になったと感じています。

田邊 最初は生配信も検討していたんです。でも、より多くの人に体験していただくには、一公演の参加人数が多くても成立すること、収録映像を使う方が費用面も含めて実現可能性が高い。そこでいろんな形態を考えた中で浮かんできたのが、LINEのチャットルームに主人公がリアルタイムで参加してくるという現在のかたちです。

今まで参加者同士がワイワイとコメントし合っていた中に、突然主人公が加わってくる。そうすることで、一気にお客さんのコミット感を上げることができるのではないかという狙いがありました。

スイッチングのタイミングひとつも徹底的にこだわりぬく

「ファンベース」という観点からはどんな工夫をしましたか。

田邊 2点ありまして。まず口コミの拡散を後押しするという意味では、お客さんとSNS上で積極的にコミュニケーションをとるようにしました。たとえば、公式アカウントに引用リツイートでコメントをくれた方に直接リプライを送ったり、参加者の方が感想をつぶやきたくなるような仕掛けを考えました。

興味を持ってくださったみなさんをロイヤルカスタマー化するには、親しみやすさも重要です。お客さんが思わずつぶやきたくなるような距離の近さというのは意識していました。

もう1つは体験のアップデートです。「ROOOM」に参加する体験そのものに価値を感じていただくために、お客さん同士がチャットルームで交わしたやりとりが物語をつくっていくという設計にしました。ただ、流す映像自体はすでに収録してあるもので変えることはできない。じゃあ、どこでアップデートを図るかというと、リアルタイムの運営です。

実はチャットルームのやりとりに関してはすべてログが残されています。これを公演終了後、毎回分析し、こういう反応があった場合、次はこういうふうにしてみようと改善策を立てる。こうしたPDCAのサイクルをBAKERUの運営チームのみなさんと相談しながら作品をアップデートしています。

夜住 映像作品を公開後にアップデートすることはほぼ不可能ですが、体験エンタメの場合、公開後に運営側がユーザーフィードバックを基にアップデートすることで作品の価値を向上させることができます。具体例を挙げて説明すると、本編の映像からチャットルームのやりとりに切り替わるタイミングって、実は毎公演、スタッフが貼りついて、チャットルームの様子を見ながらスイッチングしているんです。そのときに私たちが大事にしているのは、お客さんたちの流れを切らないこと。自分がこういう発言をしたのに拾ってもらえなかった、楽しんでいたところを邪魔された、ということが一瞬でも起きると、それがストレスになってしまう。とにかくお客さん没入して楽しんでいただけるように、一瞬のタイミングにもこだわって、毎公演、その日そのメンバーだけの「ROOOM」の世界をつくり上げています。

1+1=2では意味がない。協業することによってお互いの強みを倍増させる

映画配給会社であるアスミック・エースと、クリエイティブカンパニーであるBAKERU。組織カルチャーの異なる2社がコラボレーションすることで感じた違いや、協業することで生まれた強みもぜひ聞かせてほしいです。

夜住 作品をつくるという意味では同じなんですけど、そのつくり方が正反対なんです。映画は、物語をテンポよく見せるために間やスピード感を大切にされると思うんですが、体験型エンタメの場合、没入感を高めるには、お客さんが主人公と同じ気持ちになることが大事。そのためには、主人公が悩んだりドキドキしている時間と同じだけ、お客さんも悩んだりドキドキする時間が必要なんです。

なので編集のときによく「ここの画(え)をあと20秒引き延ばしてください」というお願いをしました。だけど、これまで映画を作ってきたアスミック・エースの皆さんにとっては、同じ画をあと20秒引き延ばすのはリズムが悪くなる、考えられない、と。そこの感覚の違いは非常に面白かったですし、すり合わせるのに最初は苦労しました。

田邊 映画って伝わることが大事なんですけど、一方で説明しすぎるのも良くないんですよね。だから私たちは普段からなるべく説明しすぎないようにという意識が染みついている。だけど、体験型エンタメは逆なんです。これは私自身もプライベートで参加した経験があるからわかるんですが、体験型エンタメは不思議と結構説明されても平気なんですよね。

わかりやすい例を挙げると、はじめに「私は探偵です。あなたたちは探偵助手です。今からこんな風に協力してください。」という形で役割と目的を明確に説明した上で始まることが体験型エンタメではよくあります。あるいは、事件解決のキーとなる場面で「今、何かヒントがありましたか?」とお客さんに問いかけたり。これは映画ではまずありえない手法です。でも体験型エンタメなら成立する。

こうした文化の違いは大きかったですし、バランスをとるのはなかなか難しかったですね。

夜住 このあたりのことについてはかなり綿密に意見交換をしましたよね。実際、「ROOOM」に参加していただくとわかるんですけど、映画的な時間の流れ方をする部分と、体験型エンタメのように主人公とお客さんがリアルタイムで同じ時間を共有している部分が交互に組まれています。そこで違和感が生じないようにできたのは、カルチャーの違いを恐れず、しっかり話し合えたおかげだと思っています。

田邊 せっかくコラボレーションするのだから、1+1=2になっては意味がない。お互いの良さを掛け合わせることで、強みが何倍にも膨らんでいくべきだと常に考えていました。

夜住 そういう意味では、これだけ本格的な映像作品を使った体験型エンタメをつくれたこと自体が、このコラボレーションの一番の強みだと思います。体験型エンタメを提供している会社や団体は私たち以外にもいろいろありますが、このクオリティで映像を使った作品というのはまだ前例がほとんどありません。そんな中で、映画クオリティの映像作品を使った体験型エンタメを世に出すことができたのは、間違いなくアスミック・エースさんとコラボレーションしたおかげです。

実際に参加していただくとわかるのですが、「ROOOM」は冒頭はほぼ映画と同じつくりなんですよね。そこからシームレスにLINEにつながって、体験型エンタメとしての面白さが浮き彫りになっていく。まさに映画の良さと、体験型エンタメの良さをミックスした作品になっています。

こうしたまったく新しい「映像×体験」のコンテンツをつくれたこと自体が、このコラボレーションの最大の成果。お互いの強みを活かせたプロジェクトになったとうれしく思っています。

BAKERUとアスミック・エース。事業フィールドも組織カルチャーも異なる2社のコラボレーションによって「ROOOM」は誕生した。続く第2回では、プロジェクトメンバーたちに「ROOOM」のこだわりを聞く。

夜住アンナ《体験設計・プロデュース》
体験プロデューサー株式会社BAKERU所属。リアルエンターテイメント業界でお化け屋敷・体験型イベントを数多く企画。近年実績として、美しすぎるお化け屋敷「THE WITCH」、クリープハイプ楽曲とコラボした体験型ドラマ「幽霊失格」、オンライン進行型ホラー「イキサキ探し」など、深い没入性とストーリー性を追求した作品を手掛け、体験エンタメの拡張を進める。

「ROOOM」公式サイト:https://stayrooom.asmik-ace.co.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/stayrooom
© 2021ROOOM/AA

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